ホサナ通信(1981.9.6号)

 「お母さん、あなたにお客さん」と主人。「あらどなたかしら?」「中年の上品な女の人だよ。」 玄関に出てみると、子供会の育成部の部長をしているKさんでした。
「高森さん。又私たちの出番ですよ。」
用件は、神宮稲荷のお祭りに子供御輿が出るので、子供会から子供たちを参加させると言うことと、その子供御輿の付き添いとして、育成部の係が当日午後三時半から七時半まで子供たちと一緒に町内を練り歩くと言うことでした。
「じゃあ、お願いしますね」
と帰りかけるKさんを呼び止めて「あの、少しおかしいんじゃないでしょうか。どうして、子供会が稲荷神社のお祭りの世話をしなければならないのですか?」と聞きます。
引き受けてくれるのは当然と思っていたKさん、少し困ったように
「これは育成会の行事として決まっていることなんですよ。ずっと前から年中行事としてやってきているんですから。」
「でも宗教に関することでしょ。それは個人の自由だと思いますが。育成会が年中行事として、信仰のあるなしに関係なくするなんて、おかしいと思います。」
大抵のことは、人間関係に波風を立てたくないと思って日々を過ごしている私ですが、こればかりは「はいはい」と聞くわけにはいきません。思わず言葉に力が入ったのでしょう。思わぬ反論にKさんも語調が強まります。
「だけどね。これはもう決まったことなんですよ。神社の方からは育成会に助成金をいただいているので、協力しなくちゃならないんです。子供を参加させるとかさせないとかは自由ですけれど、あなたは係ですからね。あなたが出来ないのなら代わりの人を頼むとかして、何とかして下さい。お願いしますよ。」
それだけ言うとKさんは逃げるように帰ってしまいました。 
 以前からしていることだからとか、お金をもらっているからだとか、変な理由。ここに日本人のあいまいな信仰の姿を見るような気がして快くありません。夕食の支度をしながら祈ります。
「神様、助けて下さい。あなたは前に二回、日曜日に育成会の仕事をしないで礼拝を守れるように助けて下さいました。今度もあなたに信頼します。この間、あなたが変わりに助け手として送って下さったAさんは肥満体で、とても四時間も町を歩いてくれそうにありません。
それに、お祭りの御輿に参加できるのは五年生以上の子供が対象です。Aさんの子供は一年生と三年生で対象外です。自分の子供のでない行事に、しかも主婦の一番忙しい時間帯に変わりを頼むのは無理のようです。去年は、雨が降って中止になったと聞いていますが、雨を降らせて下さいますか?とにかくお願いします。私は絶対に偶像のお祭りには参加しません。」 
 祈り終わると「あなたがたは心を騒がしてはなりません。神を信じ、また私を信じなさい」(ヨハネ14章1節)のみ言葉が心を占領してたちまち平安。一回目の時は「あっ、どうしようどうしよう」と心が騒ぎました。二回目も、前ほどではなかったけれどやはり少し不安がありました。でも、神様のお助けを体験する度に、動揺の程度も、動揺している時間も少なくなってきたようです。
 そして当日。あてにしていた雨にはならず空は日本晴れ。集合の時間が近づいてきましたので断りの電話をします。
 「あの、高森ですけれど、今日お祭りの・・・」最後まで言い終わらないうちにKさんの声が響いてきました。
「あーら、お伝えしていなかったかしら。お宅の班からは子供の申し込みが全然なかったので、付き添いもいらないということになりましたのよ。私、連絡したとばかり思ってて・・・・。ごめんさないね。」

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